最初のサインは、「起きられない」じゃありませんでした
私が双極性障害で倒れたとき、最初に起きた異変は「朝、起きられない」じゃなかったんです。
その前に、眠れなくなっていました。
布団に入っても、頭が止まらない。 今日あったこと、明日やるべきこと、あのときああすればよかったこと。 ぐるぐる、ぐるぐる。
やっと眠れても、午前3時、4時に目が覚めます。 まだ暗い部屋の中で、天井を見つめる。
でも、当時の私は、それを「眠れていない」とは思っていませんでした。
むしろ、「早朝に起きられてラッキー」と思っていたんです。
静かな時間に、誰にも邪魔されずに仕事ができる。 メールを片付けて、資料を作って、今日の準備を進める。 「自分は朝型なんだ」くらいに思っていました。
それが体の不調だなんて、まったく気づいていなかったんです。
サインは静かにやってきます
心身の限界って、いきなりやってくるわけじゃないんですよね。
静かに、段階を踏んでやってきます。
最初は、寝つきが悪くなる。 次に、夜中に何度も目が覚める。 そして、早朝に目が覚めて、そのまま眠れなくなる。
でも、それを「サイン」と捉えずに、「使える時間が増えた」と解釈してしまいます。
私がそうでした。
眠れない日が続くと、日中のパフォーマンスが落ちてきます。 集中力がなくなる。イライラしやすくなる。判断が鈍くなる。
それでも「頑張らなきゃ」と自分を奮い立たせます。 早朝の時間を使って、さらに仕事を詰め込む。
やがて、朝、体が動かなくなります。
私の場合は、そういう流れでした。
振り返ると、サインはたくさん出ていたんです。 でも、全部「都合よく」解釈していました。
思わぬところに現れたサイン
もう一つ、当時の私に起きていた異変があります。
口臭なんです。
当時結婚していた妻から、「口が臭い」と言われるようになりました。
自分ではまったく分かりません。 でも、言われるからには何かあるんだろうと思って、歯医者に通いました。
虫歯を治療しても、治らない。 歯周病のケアをしても、治らない。
結局、原因が分からないまま、そのうち気にしなくなっていました。
今振り返ると、あれはストレスの現れだったんだと思います。
ストレスで胃が荒れていたのか、自律神経が乱れていたのか、正確なことは分かりません。 でも、体は確実にSOSを出していました。
ただ、それが「口臭」という形で現れるとは思っていませんでした。 だから、まさか心身の不調のサインだとは気づけなかったんです。
見逃しやすいサインたち
私の経験と、カウンセラーとして関わってきた方々の話から、見逃しやすいサインをいくつか挙げてみます。
眠りの変化
寝つきが悪い。夜中に目が覚める。早朝に目が覚めて眠れない。眠りが浅い。寝ても疲れが取れない。
頭が止まらない
布団に入っても考え事が止まらない。休日でも仕事のことが頭から離れない。「オフ」の感覚がなくなっている。
体の小さな異変
肩こりや頭痛が慢性化している。胃が痛い。食欲がない、または食べすぎる。お酒の量が増えている。口臭や体臭の変化。原因不明の肌荒れ。
感情の変化
些細なことでイライラする。以前は楽しめたことが楽しめない。なんとなく気分が重い。人と会うのが億劫になる。
自分への言葉が厳しくなる
「こんなこともできないのか」と自分を責める。「もっと頑張らないと」が口癖になっている。休むことに罪悪感がある。
どれも、一つひとつは小さなことなんです。 「これくらい、誰でもあるだろう」と思えてしまいます。
そして私のように、「むしろ好都合」と解釈してしまうことすらあります。 あるいは、「歯医者に行けば治るだろう」と、別の問題として処理してしまう。
でも、体からのサインは、思わぬ形で現れることがあります。 それが積み重なっているとき、心と体は悲鳴を上げ始めているのかもしれません。
「大丈夫」の基準がズレていく
厄介なのは、こういうサインが続くと、「大丈夫」の基準がズレていくことなんです。
眠れない日が続くと、眠れないのが普通になります。 早朝に目が覚めるのが、当たり前になります。 疲れが取れないまま働くのが、日常になります。
「大丈夫」の基準がどんどん下がっていって、本当は大丈夫じゃない状態が「普通」になってしまいます。
私は早朝覚醒を「得した時間」だと思っていました。 口臭は「歯の問題」だと思っていました。 でも、どちらも体が発していたSOSだったんです。
だから、自分では気づけません。
私も、倒れる直前まで「まだ大丈夫」と思っていました。 でも、それは「大丈夫」の基準がズレていただけだったんです。
体は関係性の中で生きている
一つ、お伝えしたいことがあります。
体の状態は、自分一人の問題じゃないということなんです。
経営者の方は、会社のこと、社員のこと、家族のこと、たくさんのことを背負っています。 その責任感があるから、自分のことは後回しにしてしまいます。
「自分が倒れたら、みんなに迷惑がかかる」
そう思って、無理を続けます。
でも、本当にみんなのことを思うなら、自分の体を大切にすることも、責任の一つなんじゃないかと思います。
体を壊してからでは、遅いんです。
問いを置いておきます
最後に、いくつかの問いを置いておきます。
「最近、眠れていますか?」
「夜中や早朝に目が覚めることが増えていませんか?」
「そのとき、『ラッキー』と思って何かを始めていませんか?」
「体に、原因不明の小さな異変はありませんか?」
「あなたの『大丈夫』の基準は、ズレていませんか?」
答えを出す必要はありません。 ただ、少しだけ立ち止まって、自分の体の声を聞いてみませんか?
サインは、静かにやってきます。 そして時に、「好都合」な顔をしてやってきます。 あるいは、「別の問題」という顔をしてやってきます。
気づいたときが、立ち止まるときなのかもしれません。
この記事が、何かを感じるきっかけになれば嬉しいです。
